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2017/01/20

~よりよい呼吸のために~

メディア

J-Breath62号より 連続講座✿鍼灸✿から

息切れと東洋医学

鈴木 雅雄

【Profile】鈴木 雅雄 先生

1997 年明治鍼灸大学鍼灸学部卒業。同修士(99年)、同博士課程(04)修了。
2001 年岐阜大学医学部非常勤講師(東洋医学講座)、
04年京都大学大学院博士後研究員(Postdoctral fellow)、
06年北野病院(大阪)客員研究員、
07年京都大学大学院研究生。

08年から明治国際医療大学鍼灸学部臨床鍼灸学教室に所属。
福島県立医科大学会津医療センター漢方医学講座 准教授。
鍼灸学博士。
研究テーマは、呼吸器疾患分野における鍼灸治療効果の臨床研究。

息切れと心の相互作用

特に呼吸器疾患の患者さんには最も辛い症状の一つである「息切れ」を中心にお話を進めていきたいと考えています。

呼吸器疾患の患者さんにとって「息切れ」は非常に辛い症状と思います。
一般的に息切れは、呼吸状態の悪化に伴い酸素・二酸化炭素のガス交換の異常や胸郭や肺の弾性異常から発生しますが、それだけではなく心理面にも影響していることが最近の脳科学の研究からも明らかになってきました。

息という漢字からもそれが表現されています。
仏教の禅では独特の呼吸によって心を静め瞑想を行ないますが、ひとたび呼吸が乱れると、途端に心も乱れてきます。
〝息切れ〟とは「自」らの「心」が「途切」れると書くわけですから、今まで一つであった身体と心が離れ、乱れて行くと理解できます。
よって、呼吸器疾患の患者さんの多くは、息切れに加えて不安や孤独感など心の悩みを抱えている方もいると思います。

呼吸器疾患の息切れの治療には、呼吸状態に対する薬剤や酸素療法、リハビリなどが一般的に行なわれていますが、心の問題はなかなか理解されず、患者さんの中にも辛い思いをされている方もいると思います。
さらに、その心の問題が息切れを増悪させる悪循環を形成しています。

〝気虚〟の症状の一つ

一方、東洋医学的治療の特徴は、自然界という環境要因の影響を常に受けながら人間は心身の調和を保っているという、「天人合一(てんじんごういつ)」という考え方があります。
たとえば「秋になり空気が乾燥して寒くなると喘息発作が起きる」などの事象です。

また、禅の言葉としてよく使われていますが、「心身一如(しんしんいちにょ)」も東洋医学の核になる考え方です。
息切れを東洋医学的に考えると、どのような環境要因で息切れが起きるのか(天人合一)、息切れに心理的問題はないのか(心身一如)など、症状に関連する事象を洗い出して分析し東洋医学的な診断を行ないます。

また、東洋医学では生きるエネルギーのことを「元気(げんき)」と呼びますが、この元気は食事によって摂取する栄養と肺から取り込む空気で作られると定義されています。
呼吸器疾患の患者さんは空気の取り込みが悪くなるので、元気を作る能力が落ちていると考えられます。

このように元気が少なくなった状態を「気虚(ききょ)」と診断します。
気虚になると幾つかの症状が出てきますが、その主な症状が息切れです。
その他は易疲労(疲れやすい)、倦怠感、無気力感、気分的に落ち込む、などがあげられます。

鍼・灸・食養生

このように呼吸器疾患で気虚になっている場合は、呼吸状態を改善させるツボ(経穴=けいけつ)を使って、鍼や灸を行ない気虚の改善をはかります。
また、食養生(薬膳)として気虚に効く食材や生薬を用いることもあります。
例えば、大棗(ナツメ)や山薬(ヤマイモ)などは気を補う作用(補気)があるため、このような食材を食事のなかで摂取してもらい、鍼灸と併せて治療を行なっていきます(表)。

このように東洋医学では現代医学とは違った視点で患者さんの症状を捉えていきますので、現代医学と東洋医学の利点を併せることで、より良い医療の提供が可能になればと考えています。
私も喘息患者の一人として何度も死にかけていましたが、漢方医学によって助けられた命です。
呼吸器の患者さんのQOL(生活の質)が改善することを切に願いたいと思います。


表の説明

薬膳の基本は美味しく、そして楽しくです。
性・味…性とは食材や生薬の持つ性質で、熱・温・平・涼・寒の五つに分類されます。味とは食材や生薬の持つ味で、酸・苦・甘・辛・鹹(塩辛い)の五つに分類されます。

【注意】これらの食材はたくさん食べれば気虚が改善されるわけではありません。基本的には偏食をせずにバランスの良い食事を心がけてください。生薬食材は通常の食事内容に加えたり、食材の一部を変更するなどしてください。また、芋類は腸内でガスを発生させやすいので、食後にお腹が張って息切れが強くなる場合は摂取を避けてください。

品目性・味
穀類 うるち米 平・甘
もち米 温・甘
あわ 涼・甘・鹹
大麦 涼・甘・鹹
豆類 えんどう豆 豆平・甘
大豆 豆平・甘
豆乳 豆平・甘
野菜類 さつま芋 豆平・甘
じゃが芋 豆平・甘
山芋 豆平・甘
乾果物 なつめ 温・甘
肉類 鶏肉 甘・温
鴨肉 平・甘・鹹
豚肉 平・甘・鹹
牛肉 平・甘
魚介類 うなぎ 平・甘
どじょう 平・甘
すずき 平・甘
ふな 平・甘
こい 平・甘
たこ 平・甘・鹹

J-Breath84号  連続講座【第16回】より抜粋・・・

どのようにして活動力を高めるか

木田 厚瑞

【Profile】木田 厚瑞(きだ・こうずい)先生

70年金沢大学医学部卒業。
75年同大学院医学研究科修了。
東京都老人医療センター呼吸器科勤務、77年カナダ・マニトバ大学に留学(~80年まで)。
94年東京都老人医療センター呼吸器科部長。
2003年日本医科大学呼吸器内科教授、日本医科大学呼吸ケアクリニック所長。
2011年日本医科大学特任教授( 呼吸器病学)、日本医科大学呼吸ケアクリニック所長(現職)。

【著書】
『肺の話』(岩波新書、1998年)、
『息切れを克服しよう:患者さんのための包括的呼 吸リハビリテーション』(メディカルレビュー社、2002年)、
『肺の生活習慣病(COPD)』(中公新書、2008年)、
『よくわかる最新医学:COPD慢性閉塞性肺疾患〈第2版〉』(主婦の友社、2013年)ほか多数

*NHK『きょうの健康』などテレビ番組にも出演

*J-BREATHの「アドバイザリーコミッティー・メンバー」として、日頃より種々ご指導いただいています。


病気で活動性が低下する

どの患者さんも、人間は生まれたら死ぬことになっているのだから死ぬのは怖くない、怖いのは寝たきりになり、自分のことが自分ではどうにもできず家族や周囲に迷惑をかけることだと言います。
私たち、医療者が目標としているのも無限のいのちを目指して治療しているわけではありません。
将来、医学がうんと進んでも無限のいのちが可能な時代が来るとはとても思えません。
いのちの長さを延ばす治療よりも快適に暮らせる時間、友人や家族と過ごせる時間をできるだけ延ばす、これが治療を続ける目標なのです。

活動性が低下するとは、家から出られなくなり、やがて寝床から出られなくなる、これは寝たきりということです。
身体の機能が低下し、不調となる(図1)。

図1

これを身体のコンディションが悪くなる、という言い方をします。
呼吸器の病気を持つ人のコンディションがゆっくり低下し、悪くなるのは身体を構成する筋力の低下が原因となることが多いものです。
つまり脱コンディション、英語の表現ではディコンディションと言います(図2)。

図2

こうなると呼吸が苦しくなり、坂道や階段をやっと上るようになります。
友人との交流も少なくなり家族と一緒に出かけることも簡単にはできなくなります。
気持ちは落ち込みます。
この落ち込みがさらに病気を悪くさせます。自分ではヤケとなり、薬も指示された通りに使わなくなります。
さらに病気は悪くなっていきます。
ついには寝床から出られなくなります。
COPDを含む多くの慢性の病気では活動度が低下すると認知症が進むことが指摘されています。
COPDの患者さんに認知症が多いことが最近の研究論文に見られています。

身体をもう一度、調整するリコンディション

ディコンディションとは反対にコンディションを元に戻すことをリコンディションと呼びます。
呼吸リハビリテーションとは言葉をかえれば酸素吸入を行うことはこのリコンディションを進めることなのです。
リコンディションには酸素が効果的です。
これを正しく理解していなければ、「酸素を吸うような末期になった」というふうに悲観的に考えてしまいます。
COPDを例とすれば治療を行う目的は息切れを軽くして活動度を高めることです。
この考え方は全ての慢性の呼吸器の病気に共通する治療の目的であるといえます。
呼吸が楽にできるようになり、外出の機会も増えるようにする。
友人や家族と遊びに出かけ、軽い仕事が一緒にできるようになれば精神的にも安定することでしょう。
病気で落ち込むことも少なくなり、病気と向かい合って自分の力で生きようとできるようになります。
不思議ですが軽く汗をかくような仕事や散歩でも元気が出てくるものです。

一人で病気のことだけを思い、悩んでいては解決しません。
身体の活動性を高めること。
これと精 神的な安定性は同じ方向に向かうかのようです。(続く・・・・・・・)